木の家を建てる設計事務所
神奈川県藤沢市。
私にとってはめったに足を向けることのない場所ですが、声がかかり出かけてきました。
ウェットスーツにサーフボードを抱えた人が歩く風景は、埼玉では見られません(笑)。
用向きは建物の調査。
建て替えや改修のため解体される建物の傷み具合を、解体の前後を調べて記録するというお仕事です。
4年をかけて100件の事例を調査するプロジェクトで、最終年の今年度は30件をこなすとのこと。
私が参加したのは、大規模リフォームを予定している建物の、解体前の現況調査でした。
気温は低いものの、建物調査には上々の、陽光に恵まれた一日。
物件の庭の梅もほころんでいました。
建物は事前情報によると築25年の木造住宅。
引越し後、解体が始まる直前のタイミングでの調査です。
全体を一巡した後、調べた情報を図に記録するために、平面図と立面図を手分けして起こします。
現況調査は、建物の内外装の種類を特定し、目視で確認できる劣化のサインを探すのが目的です。
外装では、基礎や壁のクラック、仕上げの浮き、木部の腐れ、屋根材の割れや剥がれ、などを見つけ出し、ルールに則って記録していきます。
内装もすべての部屋の床・壁・天井について、シミや変色、浮き、たわみや腐食を、ナンバーリングしながら、写真と共に記録。
現況調査に対し、いづれ行う劣化調査は、解体が始まり仕上げを剥がすことで露われてくる劣化を調べるものです。
現況調査で仕上げ表面から目視で確認した変状が、劣化調査で下地にどのように及んでいたか、その相関関係を明らかにするのが調査の狙いでもあります。
そのため、現況調査では、どこにどんなどの程度の変状があったのかを、わかり易く記録していく必要があるのです。
この調査は、主に建物の傷み具合に焦点を当てたもののため、耐震性やバリアフリー性、温熱性や防火性といった点は対象としません。
設備配管の水漏れや樋のつまりなど、内外装の傷みに影響を及ぼすものは記録の対象となります。
特に木部の生物的劣化(菌類による腐食、シロアリや害虫による食害)が、どのような建物でどのように起こり、その兆候がどのように表れるかを知るのが調査の主眼なのです。
私の担当は内部で、パートナーと共に一部屋一部屋内装の変状記録に当たりました。
床や天井の点検口から覗ける範囲の、木部の変状発見も現況調査の範疇です。
床下は、洗面所の収納庫を外した点検口から腹ばいになって覗き、床板や根太、大引き・土台・束石の寸法や変状を記録します。
和室があれば、畳を上げて、荒床板とその床下の床組の状態が調べられます。
小屋裏担当は、2階屋根と下屋の天井裏を点検口から覗きます。
大抵の家では、押入れ天袋の天井板が外れるようになっており、そこから小屋組みや野地板の様子が確認できます。
基礎の状態や断熱材の無い様子から、この家の築年数は25年ではなく、もっと経過しているだろうと予想されました。
けれど、多くの部分で壁天井のクロスが新しく貼りかえられており、床板も張替えたりカーペットが敷きこまれた部分では、変状の確認が正確には行えませんでした。
ただ、元のままの仕上げの天井や床では、シミや剥がれがところどころ見つかり、タイル貼りの浴室では、カビ、目地割れ、剥がれが満載で、劣化調査の結果が気になるところです。
そうこうするうち、予定より早く解体が始まり、、、
追われるように現況調査終了となりました。
図や調査票への落とし込みを終え、洩れた部分を再確認し、変状部分に貼ったシールを剥がしたらホントの作業終了です。
解体の作業員の人たちが帰った後、解体部分の変状を一部見ることができました。
キッチン出窓上部分の木材腐朽です。
内部の現況調査で、吊戸棚下地ベニヤの変色が見られた部分です。
外部のモルタル塗り壁からは、変状が見られなかった部分とのこと。
調査リーダーのHさんによると、外壁下地を留めていた釘のうち、間柱から外れた釘が壁体内で結露を起こして冬の間に周囲の木材を濡らし、その湿潤環境が腐朽菌を繁殖させたのではないか、とのこと。
断熱材のない環境、間柱から外れた釘・・・、思わぬことが木材の生物劣化を生んでいたようです。
これは単に一例ではあるものの、これほどの状態になっていても、外壁仕上げ側から劣化の痕跡が見られなかったというのも、考えさせられました。
私が参加させてもらった調査は2年度でわずか5回ほど。
100件延べ200回の建物調査の結果が出そろい、報告書がまとめられるのが待ち遠しいところです。
今後新たに設計する建物での、雨水・湿気・漏水に対しての木部の扱いを考える上で、役立つ資料となるに違いありません。
それにも増して重要だと思えるのは、この調査結果が既存住宅の再利用活性化を後押しすることです。
今回調査を行った建物もそうですが、敷地にゆとりを残しながら深い軒の出を持ち、ゆったりと建てられた住まいは、古い住宅に少なくありません。
内部もきれいに使われており、住んでいた方の愛着が見て取れました。
この住宅はリフォームをして使われ続けるそうですが、解体して建て替えられたり、人が住まず放置され傷んでいく住宅は少なくありません。
本当にもったいない話で、新しく住まいを求める若い家族たちが、こういった住宅を住み継いでいく仕組みができれば、壊されたり朽ちていく建物を減らせるはずです。
相続や不動産売買の慣行に縛られ簡単には解決できないこともありますが、中古の住宅に適正な評価がなされていないことも、住み継ぎが行われない要因であったと思われます。
この調査結果などを基礎資料とし、コンパクトで合理的な調査を行い、年月を経た多くの木造住宅の劣化状態の適正な評価を速やかに行うことができるようになれば、状況は変わりそうです。
これまで価値が限りなく低かった建物にも価格が設定でき、或いは土地購入の際に解体対象でしかなかった古屋が、手を入れれば住むことができることがわかれば、救われる建物がたくさん出てくるでしょう。
我々も、価値ある既存住宅の、魅力あるリノベーションスキルを磨いていかねば!
ホッと安らげる無垢の木の家、家事がしやすくストレスのない住まい、光と風を感じる空間、健康負荷の無い自然素材の家、セルロースファイバー断熱の呼吸する住まい、高耐震住宅の設計を得意としています。
『家づくり至高ガイド』&『住宅リフォーム至高ガイド』(エクスナレッジ刊)その他、住宅に関する執筆多数。
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